家が隣同士で生まれた日もそう離れてなくて、親同士が仲良くてまさに生まれたときからの幼馴染なんてそんな設定、手を叩いて笑いたくなる。
さあ笑え、それが事実だ。


少女漫画なんてくらえ!


「うち、好きな人できてん」
「え、まじでー」
「だから、告白するの協力してくれへん?」
「ええよー」
「はァ?!やきもち妬けや!」


つばを飛ばして怒鳴ると佐野は少し驚いてスポーツ新聞から顔を上げた。


「なんやの、急に」
「だってそらァ幼馴染が他の男に惚れてるなんて聞いたら動揺するじゃろうて!」
「…何が言いたいねん」
「さのくん、わたし、スキ、YES?」
「ノー」


ほんまムッ殺したくなるな時々
言うと、ほんな若者ばっかり増えよるけんジーコジャパンはアカンねや、と言って佐野は新聞をたたみ始めた。(知らんよ、うち野球派やし)
うちかてホントのところ、佐野がうちに恋愛感情持ってるなんて思ってもなかった。
何年も隣の家に住んでいて、高校までずっと同じ学校だったと言ってもそれだけで、うちは佐野のこと全部が全部わかってしまうような人間ではなかったし、佐野にしてもきっとそうだ。
うちのおかあちゃんと佐野のママが仲良しで、それにひょいと便乗しただけの十数年だ。


「やぱし何年も一緒やと、恋愛対象には見られへん?」
「なんやのホンマに、ほんなん関係なかろーて」
「ンマ腹立つわあー」
「マンガの読みすぎやろう」


事実きっとそうなのだ。
ああ腹が立つ、おんなの数に見合うだけの優れたおとこがいて、泣いたり苦悩だったりそれでも立ち上がって永遠の愛を手にする?
腹立つわ。
あこがれないはウソだけどありえないが現実、きっと耐えられないものね。


「うちに興味ない?」
「だっておまえ、チチねーんだもの」
「はァ?!」
「菊がもしグラビアアイドルにでもなろうものなら結婚してやっても良いけどー?」
「ばかやろおまえー!うちのからだを他の男共に見せてもエェんか脱ぐぞここでー!」


キラキラの目をした女の子たちがツヤツヤの男に恋をして、悲しかったり仲良しだったり別れたりエロスだったりミステリーだったりそんなだから世の中はこうはいするんだ。
ああどうか若者よ、現実を見て世の定めを知れ
わたしは少しだけ、苦しい。


「もうどうだっていー」
「チョコレート食うか?」
「なんで食べたいのわかったの」
「俺ぁ菊のことならまぁだいたいわかってるしな!」
「うちDカップやで」
「ウソもバレとるんやで」
「うん、せやな」


口の奥が苦くてすっぱい。
うちらの関係がうらやましいなら変わってやりたいさ、うそだけど。
卑屈になるのも嫌だ。 ただ佐野が他のおんなのものになるのを見届けられたらそれで良い。


「おまえには俺よかオシムみたいな人間が似合うて」
「バレンタイン監督の方がかわいくてえぇわ」


手は繋がないけど、かわりに佐野はうちの頭をよく小突く。