「はよう帰りよし」 ばばあが言うのを尻目におれは書き続けた。 くろぐろと硬い地面の上でロウ石はがたがたと俺の全身を揺らして滑る。 少し自分が強くなった気がした。 暑さが重みを増す中でおれのえがいた脅威はますます厳かに艶を発した。 蚊取り線香の匂いもした。 ‐ ‐ ‐ どれだけの時間を費やしたのか知れない。 へとへとになるほどおれの命を吸って地面に現れた怪獣は、空を美しくにらんでいた。 「気ィは済んだかえ」 ばばあはお面の棚やどんぐり飴のボトルを奥に運びながら言った。 「もうすぐおれ、都会のにんげんになるんや」 糸引き飴の数を増やしながらばばあは そうかい と言った。 去年いとこの家に行ったとき、そこは都会で動物のような化粧をしたおんなや顔じゅうにピアスをつけたおとこや地鳴りのように轟く道路の音にびびって逃げ出したいと思ったのを思い出した。 ( おれもあんなになるのか おれもあんなまっくろなにんげんになるのか ) 「ばばあ、悪かったなあ。おれこのあいだジュース盗ってんや」 その分のお金だからと言ってありったけの10円玉をばばあに突き出すと、 まいど と言ってばばあはラムネを一本よこしてきた。 「おれサイダー飲めねえよ」 言うとばばあは 子ども様ははよう帰りなんし と言って打ち水をまいた。 怪獣は消えなかった、 ばばあのまいた水を体じゅうに浴びても。 くろぐろとなまめいて、いつまでも空中をにらんで離さなかった。 |