「おれのさいごの作品はおまえにやろう」

そう言った次の日、じいちゃんは本当に倒れてしまった。
淡い紫色は光を通すと、ほのかに青く見えた。


飾りや取っ手こそないものの、わずかな狂いもなく凛とした姿でそびえる花瓶だった。
くしゃみをすれば、何か出てくるのではないかと思わせるほど、どこか厳かで愛おしかった。
頭に手ぬぐいを巻いて火の前に仁王立ちするぶっとい首のじいちゃんを、昔は海賊なのだと信じて疑わなかった。
真っ赤に溶けたガラスに、ころころと息を吹き込むじいちゃんは、寡黙で、美しくて、恐ろしかった。
じいちゃんは父ちゃんに何も技術を植えるようなことはしなかったし、
父ちゃんも今の仕事を貫くことがじいちゃんの願いだと言って淡々と葬儀を済ませたけれど、ぼくは知っている。

じいちゃんが、あのまっかな火の奥に神様を見ていたこと
じいちゃんが、神様の手が撫でたガラスにじいちゃんの命を吹き込んでいたこと




じんじんと蝉が騒ぎ出した頃、薄暗い工房の中でぼくは小さなちいさなえびを花瓶に流した。