「コンビニ行こう、牛乳なくなった」


聞こえたふうなそぶりもせずに俊介はテレビを消してソファから立ち上がった。

はたして原因は何だったのか。 悪いのはどちらだったのか。
考えるのもうんざりだし、そんなことしなくたっていずれまた元に戻る。
無言のままごそごそと靴を履いて、ふたり一緒に玄関を出た。




 ★ ★ ★




いつもなら あぶないからお前は歩道側歩け と言って俊介はあたしをかばう。
先っぽが削れて色のはげたパンプスを鳴らしてよたよたと歩くあたしを俊介はずっとお世話係のようにそばで守っていてくれた。

困ったことに、あたしも俊介もそれはもう頑固で、強情で、妥協や譲歩の出来ない人間だったから、楽しくないときはとことん楽しくない静かなふたりになるのだった。
眉間に皺を寄せたまま俊介は歩くし、あたしは黙って俊介のあったかい指を少し爪を立てて握る。


「アイス食べたい」


ぽつりと言ったあたしに、さっきまでむっつりと黙ってとげとげしいオーラを放っていた俊介が じゃあ俺、杏仁豆腐 と言ってそれきりだった。


空気は昨日より幾程か湿気ていて、冷たくはない風にあたしたちは目を細めた。
コンビニは、そこだけが輝いていて、何もないわたしたちの街にはあまりふさわしくなかった。

自動ドアをまたぐと、わたしたちはまたわたしたちに戻る。


「おなかすいたね」
「さっき見てた試合、もう結果出たかな」
「ついでにお菓子買っていい?」
「俺も欲しい」