子どもの頃の夢を見た。

と言っても、私が子どもだった頃を夢に見たわけではなく、子どもの頃によく見た夢を見たのだ。



   *


浅黒い肌の大きな手で私の手を握ってずっと 大丈夫だよ と言ってくれるのだ。
顔をあげると目を細めて笑っている男がいた。


ぴこん ぴこんと名前の知れない機械が私の鼓動を刻んでいて、まさかこんな歳になってあんな昔のことを思い出すなどとは思わなかった。
夢が走馬灯だなんて。
もう、昨日のことですら霧靄がかかったようにしか思い出せないのに…


「やっと会えたね」


辛うじて出た声で言うと男は少し驚いたように目を見開いて、それでも うん、そうだね、頑張ってね と言って握っていた手に力を入れた。


   *



それは夢で見たよりもあたたかで、笑ったその優しい目がまた 大丈夫だよ と言うのが聞こえて、安心した。


「大丈夫だよ、母さん」


ベッドに溶け込むような感覚だった。
すんなりと。

まぶたは閉じた。