みかんを、う。
「おかーさぁーん、みかんなくなったー」
「テレビの横のダンボールに入っとるから補充しといてえ」
「はぁい」


こたつの上に置いていた籠にみかんを盛って、再びふたりの間に置いた。


「それになあー、うちの寮、ユニットバスやねんよ」
「ええやないの!めっちゃおしゃれやんー」
「えー」
「嫌なん?」
「あんなトイレ広かったかて、おちおちウンチ出来ひんわ」
「…ああ、そう」


きみちゃんが頭を抱えてうなる。
昔からあほな子ォやなあとは思ってたけど、磨きがかかったね。あほに。
うー とか むー とか言いながらみかんの筋を丁寧に剥がしていくきみちゃんの左手薬指で光る指輪を見て、すこしどきどきする。


「でもやっぱり失敗やったと思うわ」
「なんでよォ」
「女子寮やから、例え家族でもオトコは入って来られへんねんて」
「きみちゃん、彼氏居るもんねー」
「あーぁー、短大入ったらえろえろの予定やったのにー!」


きみちゃんは決して美人ではないけれども、ちからの強い目をいっぱいに細めて笑った顔とか、冬でも少し焼けた温かそうな肌は、うらやましいとさえ思う。
一体この子はどんな声と顔をして、男に泣かされるのか。喘ぐのか。


「ゆんねーちゃんは今の大学、満足しとる?」
「まあネー」
「うちはもぅすでに嫌やあー、ずっと17歳でえーわー、社会に出たくあらへんー」


爪の間に入り込んだみかんの繊維を掻き出したり、小さな房を最後にとっておいて食べる仕草はまだまだあの頃のままなのに、手の甲に浮いた細い骨や知らない香水の匂いが、きみちゃんを貴美ちゃんに、よく遊んだ年下のいとこをひとりの女に変える。


「ゆんねーちゃんも今度、うち遊びに来てナ」
「うん行く行く、おばちゃんもおじちゃんも元気?」


みんな元気やで
と笑って言ういとこが、この愛くるしい声で私の知らないおとこの体温に声をあげているのだなあと思うと、みかんが酸っぱくなった。