悪気がないことも、少し小賢しいだけだということも、すべてわかっているつもりだった。

顎下を裂くほどに。


「みずき」

規則的に上下する浅く焼けた肌を撫でながらその温かさに少し目を細めてみる。

「あほ」

少し緩んだくちびるに視線をやり、耳朶のあたりからするすると手を滑らせていく。
かたい身体  温かいからだ   長くてひどく柔らかなまつ毛
すべてがずっと何もなかったかのように私のそばにあり続ければ。

「…あんまり心配かけさせんな」

ぽそぽそと聞かせるでもなく喋っていた言葉が不意に届いて、みずきは目を閉じたまま私の肩を少し掴んで引き寄せる。



まだ心地の良い脳裏から覚醒しないその愛おしいほどの幼い敵に、歯をむきだして噛み付いた。
鈍い声をあげてやっと跳び起きたそいつの肩に、私の不揃いな攻撃が赤く浮く。
いつまでもお前は  私のそばにいれば良いのだ    それだけで良いのだ。