「そうやって、なにもなかったみたいな顔して笑ってられるのがいちばんむかつく」 そんなまどろっこしいですよ、先輩みたいなことを言いたげに眉をしかめられても、あたしにはどうしようもないんだよ。 途惑って戸惑ってそのまま繕う 鼻で笑い飛ばしてやろうかとも思ったけど、思うように声が出なくて、震えることが悔しかった。 「そんなのはわがままですよ、ただの」 ひゅう、と、音を立てて、よし、今だがつんと言ってやれと思ったら、鳳は涼しい顔して、あたしを打ち付けた。 もう1秒、あたしの心が早く安定して、もう3秒。 鳳が言葉に戸惑ってくれればどうにかなったじゃないか。 すごいむかつくよ、そういうところも全部。 親の顔が見てみたい、と。 思うのだけれど、見たってどうせ、どうもしないけど。 悔しさはそんなものじゃおさまりませんよ。 ばかみたいに。 「じっとしててください」 「厭だよ」 「なんで。血、出てるのに」 「目に見えるもんなんてな、どうにだってなるんだよ」 小説の読み過ぎですよ。 悲劇も卑屈も掲げられてませんよ。 そんな冷たい視線だった。 あたしは深読みしすぎなんだ、だからそんな目で見ないでってば。 「じっとして」 「人の話し聞いてなかったの?」 「聞いてたから」 「じゃあもういいんだってわかったでしょ!」 「どうにだってなるんなら、今のうちにどうにかしようと思って」 青いキャップのボトルを大きい手で絞って、鳳があたしのひざに消毒液をダラダラと垂らした。 じわぁ!と。 本当に、じわぁ!と、悲鳴を上げるようにあたしのひざが余計に真っ赤になってひりひりとしみた。 遠慮もくそもねえな、いつだってあんたは。 あたしだって。 愛だって。 「・・・・・・いつまでも偽善ぶって生きれる思うんじゃねーよ」 「・・・肝に銘じておきますよ」 ひざまずいて、鳳はあたしの足首を掴んで言うのだ。 2 9 6 1 5 お わ る |