湿気のせいでシャツがべたべた肌に張り付くんだと言ったら、大西はちょっと首を傾げて、「じゃあ長袖とか着て来んなよ」と言う。



れた日に逢いましょう。



でも肌と肌がくっつくのはもっと嫌なんだというのは伏せておいた。
でないと大西はもっと怪訝そうに顔をしかめる。

「でもホントにクソあちーな」
「むしむしするの、ほんとに嫌いなんだけど」
「おれ将来ぜって海の近くに住む!」
「えー、やだー!」
「・・・別におまえと住むとは言ってねーよ」
「え!うそ!てっきり今のプロポーズだと思ってた!」

ばか言ってんな!
ごちん、と、みっともない音をさせて、大西があたしの額をゴツゴツの骨ばった拳で小突いた。

「いて!」
「でさー、毎年夏になったらチャリで一気に下り坂駆け下りて海行くんだよ!あ、おれんち、海の近くの坂の上のマンションな!」

白がいいよな、白!
そんなことどうだっていいよ、みたいな顔をムリにだらしなく笑わせて、あたしは大西の話しを聞いているけど。
でもあたしは海のそばはいやだなぁ、山もどうかと思うけど。

「冬の海ってさみーのかな、あ、でも早朝ランニングとかしてみてー!ボクサーみたいな!」
「あんたバスケ部でしょ」
「そんでよ、自分トコのガキとかつれて毎年花火とかしに行くんだって!」
「・・・あー・・・」
「なに?」
「プロポーズじゃなくて、あたしに妊娠しろとですか?」
「言ってない!ぜってー言ってない!かすってもない!!思ってもない!!!」

高くも安くもないありきたりなだっさい夢語って大西は手を動かす。
どうせ理由なんか聞いたところでそのくだらなさは計り知れてるだろうから、そんな野暮なことはしないけど。
(でもそんな必死になって否定しなくてもいいと思う・・・)

「おまえ、そんなおれのこと好きかー」
「うーん、すき?」
「・・・・・・」
「え、疑問系でてれるの?そんな大西もあたしのこと好きなの?」
「うっせ!(ちょっとときめいたおれがどうかしてた!)」
「(そうんなだ・・・)でも海のそばとか、地震来たら津波で死ぬよー?」
「あー、そぅなー、でもそんときゃそん時じゃね?」
「やだー、おーにし流れて死んだら、あたし、泣くよ?」
「流れるって、かっこわりー言い方すんなよ」

でもだってそうじゃん。
みたいなため息をわざとらしくしてみせると、大西はでもじゃあおれにどうしろってんだよ、みたいなことをつぶやいて口をつぐんだ。

「あ、でもあたし」

高くも安くもないありきたりなだっさい夢とか言ったけど、でもホントは、

「坂の上の白いマンションは賛成かも」

大西が笑ってんだからそれでも良いとも思ってる。
そうだろ?と、笑って大西はあたしの背中を叩いた。
流行んなくても、大西と一緒に暮らせるなら、それもいいだろう。きっと。